はじめに

世界中にはさまざまなワインがありますが、その味わいの殆どを決めているのは、生産者でも醸造方法、土地ではありません。それは、ブドウ品種です。

どれだけ偉大な生産者たちも、口を揃えていうのが「ブドウが本来持ち合わせているポテンシャルを最大限に活かすこと。人が手を加えてはいけない」ということです。

ブドウの持つ味わいを引き出すために、生産者たちは土壌や日照量、醸造法などにこだわるのです。

さて、そんなブドウ品種の個性が最も出る品種が「ピノノワール」です。

世界中の生産者たちが愛して止まない、この魅惑のブドウ品種。今回、高級品種のなかでももっとも崇拝されているピノノワールについてを紹介しましょう。

ピノノワールとは?

ピノノワールとは、ワイン用のブドウ「ヴィティス・ヴィニフィラ」に属する黒ブドウのひとつです。

色は紫色で青色の果皮を持っています。実は白いため、ピノノワールデュブランとも呼ばれています。

ピノノワールの、ピノは松ぼっくりのことであり、その姿が松ぼっくりのかさのようだったためこの名が付けられたといわれています。

ピノノワールは、生産される土地によって名前が変化し、イタリアではピノネーロ、ドイツではシュペートブルグンダー、フランスのジュラ地方ではグロ・ノワリアンなどとも呼ばれています。

栽培が難しい

ピノノワールが何故、多くの生産者たちから注目されているのでしょうか。その理由は、栽培がとても難しいから…ということにつきます。

シャルドネなども、各国の生産者から人気の品種ですが、逆にシャルドネはさまざまなテロワールに対応する万能品種ですので、そういった意味でも国際品種で造りやすいので人気です。

それなのに、なぜ栽培が難しいピノノワールがここまで人気なのでしょうか。

まず、ピノノワールで成功している土地はフランス・ブルゴーニュ地方であることはご存知だと思います。

近年、アメリカのオレゴン州やニュージーランドのセントラルオタゴ、オーストラリアのヤラヴァレー、ルーマニアなど注目産地が続出していますが、ブルゴーニュ地方に勝るピノノワールは未だ生まれていないというのが専門家たちの見解です。

ピノノワールは果皮が薄いことからも、とても繊細なブドウ品種であり、病気にかかりやすい品種として知られています。

冷涼な土地を好みながらも、十分な日照量と少ない雨量、水はけの良い土地を選びます。

ブルゴーニュ地方の北側のシャンパーニュ地方においても主要品種といわれていますが、冷涼過ぎるためにスティルワインとしては十分に熟さないようです。

高温多湿である土地での栽培が難しく、納得いくピノノワールを造れる場所と生産地が極めて少ないからなのです。

世界でトップを取れる

また、ピノノワールで成功することは、世界で成功したと同然の扱いを受けます。

ブルゴーニュ地方のコートドドールでは、赤ワインでAOCを名乗るためには、基本的にはピノノワール一択という選択肢しかありません。

一部例外もありますが、コートドドールの有名ワインはピノノワールだけで造られているのです。

さて、ピノノワールで成功すると、なぜ世界的成功を収められるのか。

それは、あのロマネコンティ、エシェゾー、ラターシュ、リシュブール、ジュヴレシャンヴェルタンなど、世界的に有名なグランクリュと比肩することになるからです。

自らの生み出したピノノワールのワインが、「ジュヴレシャンヴェルタンを抜いた」となれば、それはワイン業界に大きな打撃を与えたと一緒です。

さらに、世界中にそのニュースが流れ、瞬く間に世界的生産者として取材が殺到し、ワインの価格が高騰するのです。

しかし、ピノノワールは難しい品種であり、同じブルゴーニュ地方で育てても並のワインしかできないこの方が多く、多くの生産者がこの品種で夢を見るのです。

ピノノワールの味わいとは?

ピノノワールがどれだけ素晴らしいワインだったとしても、味わいが美味しくなければ、誰も見向きしません。

世界的な品種であるカベルネソーヴィニヨンは、ボルドー原産のブドウですが、味わいは濃厚で色も非常に濃いガーネット、若いうちはタンニンも強烈で長期熟成タイプがウリの黒ブドウです。

一方、ピノノワールはその真逆の存在であるともいえます。色合いは非常に淡くエレガント。

香りもイチゴやベリー、小さな実のカシス、タンニンは比較的穏やかで繊細な酸があります。比較的カジュアルなピノノワールワインは、若い頃はサッパリとしており、酸度が高いので警戒な飲み口と表現できます。

しかし、数十年の熟成に耐えうる最高のピノノワールの場合、タンニンがよりまろやかになり、酸度もバランスよく液体に溶け込み、ベルベットのような舌触りを演出します。

香りも、イチゴのような爽やかさを残しながらも、なめし革や枯れ葉、腐葉土、紅茶などを醸し出し、実に高貴な味わいへと完成されていくのです。

ピノノワールの魔術師と呼ばれた、あのアンリジャイエは、「ブルゴーニュ地方以外のピノノワールに注目が集まっているが、確かにはや飲みであればある程度は美味しく飲める。

しかし、ピノノワールはブルゴーニュの土地を好む。だからこそ、ブルゴーニュ地方のピノノワールは10年後に美しい味わいを残しながら進化を続ける。

他の産地のピノノワールは、長期熟成に絶えられず、必ず馬脚を現す」と語っています。もし、本当のピノノワールを楽しむのであれば、本場であるピノノワールを飲む以外、知ることができる方法は無いのです。

ピノノワールの遺伝子

イタリアのエドワード・マーチ・ファウンデーションという研究機関が2007年にブドウ品種の遺伝子を解剖した結果、ピノノワールには9585個の遺伝子が見つかったそうです。

そして、その遺伝子の中でスニップと呼ばれている突然変異を起こす遺伝子が、86%も見つかったのです。

変異しやすいといわれていたピノノワールですが、この研究結果により、ピノノワールが変異しやすく、どの土壌にどの遺伝子のピノノワールを植えるかという問題を複雑にしていることが分かるのです。

イタリアのエドワード・マーチ・ファウンデーションという研究機関が2007年にブドウ品種の遺伝子を解剖した結果、ピノノワールには9585個の遺伝子が見つかったそうです。

そして、その遺伝子の中でスニップと呼ばれている突然変異を起こす遺伝子が、86%も見つかったのです。

変異しやすいといわれていたピノノワールですが、この研究結果により、ピノノワールが変異しやすく、どの土壌にどの遺伝子のピノノワールを植えるかという問題を複雑にしていることが分かるのです。

ピノノワールから派生する品種たち

さて、突然変異してしまうピノノワールですので、ここから黒ブドウではなく、白ブドウになることもあるようです。

ピノノワールの突然変異によって、白ブドウとなってしまった品種のひとつが『ピノブラン』です。

さらに、灰色になってしまったブドウも存在しますが、それが今ニュージーランドで話題を集めている『ピノグリ』なのです。

全て、全然別の品種なのではなく、もとを追っていくと、実はピノノワールが元にあるのです。

知れば知るほど面白い

ピノノワールと聞くと、エレガントなワイン、高級ワインに使われているブドウ品種というイメージが先行されると思います。

しかし、ピノノワールのことをいろいろと調べていくと、思いがけなかった魅力が溢れ出すように出てきます。

たかがブドウとはいいますが、ピノノワールひとつに命を賭ける生産者が世界中にいるのです。ワインは、ウンチクだけで飲むものではなく、こういった基礎知識があるからこそ、より楽しめます。

今後、ピノノワールを楽しまれる時は、どんな土壌でどんな遺伝子を持っているか、分かるとより美味しく味わえるはずですよ。