はじめに

今、日本酒が世界中から注目を浴びています。フルーティーで飲みやすいだけでなく、アミノ酸を豊富に含んだ甘みのある味わい、さらりとした舌触りの良さも人気の秘訣です。どんな料理にも合いやすく、世界遺産に和食が認定されたことでも、その人気に一気に火がつきました。

さて、そんな日本酒ですが、さまざまな製法があり、初心者には少々難しいと思われています。特に、生酛や山廃など、日本酒ラベルによく貼られていますが、その意味を理解できている方は少ないでしょう。今回、ここでは生酛についてを紹介します。

生酛って何?

生酛は、近年日本酒業界でもその味わいの良さが見直され、生酛チャレンジなる企画も出ているほどとなりました。ただし、生酛自体の意味が分かっていないと、何がどのように違うのか分かりません。

生酛は、生と記載されているので新鮮なイメージがありますが、これは日本酒の製造用語のひとつであり、生酛以外で造られた日本酒が新鮮では無いということではないので注意してください。

生酛は、伝統的な製法であり、山廃や速醸酛が取り入れられる前は、日本酒は基本的に生酛で造られていました。では、より深く生酛について知って行きましょう。

野生の乳酸を使うのが生酛?

日本酒は、ワインとは違って、原料である米を蒸し、麹菌の働きによって糖分を出し、酵母を入れて発酵させる工程を経て造られます。ワインの場合は、ブドウ自体にグルコースとフルクトースがあり、酵母も表皮に付着しているので、極端な話し潰せばアルコール発酵が始まります。

日本酒の場合、醪の仕込み前に酛と呼ばれる酒母の働きで酵母を培養する必要があります。その時、雑菌などから醪を守るために乳酸が取り入れられるのですが、蔵に住み着いている野生の乳酸を使うのが、生酛造りで採用されている方法です。

生酛づくりの方法

では、具体的に生酛とはどういった作業なのかを確認していきます。前述したように、雑菌などを排除して、優良な酵母を残すために醪に乳酸を取り入れなければなりません。

しかし、昔は乳酸菌は売っていません。そこで、米や米麹を手ですり潰す作業が行われました。これを、すりなどと呼んでいますが、こうすることで乳酸菌が発生させやすい状況を作るわけです。

醪が発酵し始める状態では、硝酸還元菌から野生酵母、産膜酵母が優位となっていきます。そして、徐々に時間が経って行くうちに、乳酸菌がこれらを全て駆逐してしまい、安全な酒母ができあがるのです。

生酛づくりは凄く大変

米や米麹をすり潰して乳酸菌を発生やすくさせる、生酛の工程。一見、すり潰す工程は楽しそうでラクチンなイメージを持ちますが、実はかなりの重労働であることで知られています。まず、乳酸菌が必ず発生するとは限りません。

さらに、自分が飲むだけの日本酒を作るのであれば良いですが、通常は大量に作られるので、相当な量の米があるわけです。基本的に、この作業は杜氏たちが総出で行うようなもので、大変大掛かりな作業となります。さらに、山卸しはより大変ですので敬遠されていると言われています。

山卸しの辛さ

生酛づくりの工程で必ず行われるのが、山卸しです。手を使って米をすり潰すのではなく、山卸しはフタの無い半桶に仕込まれた酒母を櫂を入れてする作業をいいます。

ただし、こちらもとても大変です。酒母はとても繊細であるため、雑菌の増殖などを抑えるために、温度が低い状況で行われます。冬の深夜に一晩中、この作業を行わなければならず、さらにはデリケートな作業ですので、失敗は許されません。

こういったことから、できるだけ山卸しをしなくても安定的にお酒が造れるようにならないものかと、研究が続けられていたのです。

山廃仕込みや速醸酛の出現

蔵元たちの辛いの声に応えるため、1909年に国立醸造試験所で開発されたのが、山廃づくりといった、山卸しの作業を省いた醸造技術です。山配酛と呼ばれる酵母を使うことで、安定的に酒質の良い日本酒を山卸し無しで造れるようになったのです。

さらには、よりスピーディーに安定してフレッシュな日本酒を造れるようにするために、速醸酛というものも登場します。通常、長期間かかるこれらの作業を、直ぐに終わらせることができる画期的な酵母であり、現在でも多くの蔵元では速醸酛が採用されています。

生酛のメリット

辛い作業として、蔵元たちに敬遠されていた生酛ですが、近年では見直されています。生酛で造るメリットは多くありますが、まず、生酛はやや長い期間行われることからも、菌や酵母など、これらの生存競争が長期間が行われることとなります。

リスクも当然ありますが、この期間に生き残れた酵母はダントツに生命力が強く、酒質がしっかりとなります。

日本酒は低温での発酵が基本ですので、これらの低温環境では弱い酵母は活動ができません。生酛づくりで鍛えられた酵母の場合、こういった低温環境でもしっかりと生きながらえ、香味を存分に出すわけです。

生酛で造られた日本酒の味わい

蔵元たちの努力により、生酛で生まれた日本酒。一体、どのような味わいの特徴があるのでしょうか。まず、フルーティーかつスッキリとしているということです。しかし、先述した通り酵母がしっかりとしているために、アミノ酸は豊富に含んでおり、コクやまろやかさ、濃厚さもあります。

山廃がどっしり系、速醸酛系がフルーティーでスッキリといわれているので、つまるところ、その中間的なバランスの良い味わいと言ってよいでしょう。純米大吟醸にしても、フルーティーなだけはなく、しっかりと骨格のある味わいと理解しておくと良いと思います。

生酛に合わせたい料理

ここまでお読みいただけたのであれば、生酛づくりがいかに大変であるか分かっていただけたと思います。しかし、手間をかけた分、素晴らしいバランスの取れた日本酒らしい、日本酒が生まれることも事実です。

ただ、美味しいからとか、話題だからとか、そういった理由で生酛の日本酒を飲むのは一旦待ってください。蔵元たちの努力やストーリー、そしておすすめの飲み方。生酛では、そういった側面も楽しむとより美味しく楽しめると思います。ぜひ、次に購入する日本酒は生酛づくりでいきましょう。

生酛を沢山飲もう!

ここまでお読みいただけたのであれば、生酛づくりがいかに大変であるか分かっていただけたと思います。しかし、手間をかけた分、素晴らしいバランスの取れた日本酒らしい、日本酒が生まれることも事実です。

ただ、美味しいからとか、話題だからとか、そういった理由で生酛の日本酒を飲むのは一旦待ってください。蔵元たちの努力やストーリー、そしておすすめの飲み方。生酛では、そういった側面も楽しむとより美味しく楽しめると思います。ぜひ、次に購入する日本酒は生酛づくりでいきましょう。