はじめに

ワインの善し悪しを決めるのは、間違いなくブドウです。しかし、ブドウがどれだけ素晴らしくとも、ワイン醸造がスムーズに行われないと、オフフレーバーといった悪しき香りをワインが放ち、美味しいとは言い難いお酒ができてしまいます。

ブドウはそのまま潰して放置しておくだけでもアルコール発酵が行われるといわれていますが、それは全て酵母のおかげです。ブドウの善し悪しも酵母で決まってしまう、そのヒミツをここでは紹介しましょう。

果皮には沢山酵母がついている!?

ブドウは不思議な果実で、さまざまな酵母がすでに果皮に付着しています。たとえば、クロエケラという酵母であったり、クリプトコッカス、カンジダ、ピキア、ハンセニア、デッケラなどです。これらは、我々の生活に馴染みが深い酵母ですが、ワインにも多少なりとも関わっているので覚えておくと良いでしょう。

そして、最もワインに関係しているのが、サッカロマイセスセレビシエという酵母。これこそ、ワインの全てを決めるといって良い、重要な酵母なのです。

サッカロマイセスセレビシエが生き残る

酵母、サッカロマイセスセレビシエが重要な理由は、アルコール耐性が強いからです。クロエケラやクリプトコッカス、ハンセニアなどは、アルコール発酵が初期の頃には多いのですが、高温となり、さらには酵母たちの力によりグルコースとフルクトースが複雑な経路でアルコール発酵を起こすと、死滅してしまいます。

結果、ワイン中に残るのがサッカロマイセスセレビシエの酵母です。そして、このサッカロマイセスセレビシエが、香りに重要な役割を持っています。

ワインの香りのポイント

ワインには、ブドウ由来の香り、発酵によって生み出される香り、樽由来の香りなどの3種類が主なポイントです。酵母が強く関わるのは、第2アロマですが、さきほどのサッカロマイセスセレビシエは特に香りに関わっています。

酵母が、グルコースなどの糖分を分解してアルコールと炭酸ガスを発酵させているのですが、その分解の時に香りの成分を発生させます。品種や酵母の違いなど、さまざまな観点から香りの出し方が違っています。つまり、これがワインの香りを単一にせずに複雑にするひとつの要因なのです。

酵母に求められるものとは?

ワインにとって、好ましい酵母菌の働きとは何でしょうか。まず、遺伝学的な安定はもちろんですが、低窒素成分要求性です。ワインのアルコール発酵にとって窒素は大切ですが、多過ぎても少な過ぎてもいけません。

しかし、窒素が足りない場合は、酵母がワイン中のタンパク質を分解してしまうため、その時にオフフレーバーも同時に出してしまうことが分かっています。窒素を少なく要求するだけで、安定的にアルコール発酵ができる酵母菌は特に優れているわけです。

最後までアルコール発酵ができること

当たり前だと思っている方が多いと思いますが、案外アルコール発酵を安全に終わらせることは、難しいことといわれています。ワインのアルコール発酵中には複雑過ぎる化学反応が起こっているために、酵母を入れて放っておけば上手にアルコール発酵が終わるわけではないのです。

そこで、酵母の種類のなかでも、糖分を全てしっかりとアルコールに変えられる、優秀なものを選ぶ必要があります。安定的にアルコール発酵ができてるのも、酵母のおかげなのです。

選抜酵母とは?

さて、今までの話しを見ると、全てブドウ由来の酵母にて発酵を行っているという印象を与えたと思いますが、実際のワインメーカーは選抜酵母を使ってワインを作っています。

選抜酵母とは、フランスなどの有名な産地で使われている酵母を純粋培養し、それを粉末状などにして市販している、いわば添加用酵母です。

あまり良いイメージが無いかもしれませんが、狙った通りの味わいや香りを出しやすく、スタックファーメーションという、発酵が途中でとまってしまうトラブルも防ぎやすいのです。

自然発酵の難しさ

近年、自然発酵で造られるワインが流行りですが、実は自然発酵はかなり難しいといわれています。まず、さまざまな酵母菌が存在しているため、発酵初期の状態でどのようなことが起こるか予想できないという部分です。

さらに、発酵の開始や進行、生成、発酵終了後のタイミングなど、さまざまなトラブルが起こりやすくなります。また、雑菌が入りやすい状態ですので、オフフレーバーも加えてしまう可能性もあります。これが、自然発酵の難しさなのです。

純粋培養を使うメリット

純粋培養で造られた酵母を使ってワインを発酵させる優れた点は、自然発酵の逆と考えると良いでしょう。そのうちのひとつに、狙った香りや味わいを目指せることがあります。

例えば、色合いを良くするもの、香りを高くするもの、アルコール耐性のあるもので安定して発酵ができるもの…。数え上げればキリはありませんが、とにかく安心して目指す香りを出すことができます。純粋培養から造られる酵母はワインメーカーにとっては、とても有り難いものなのです。

もし、自然発酵を行ったら?

ワインを飲む時に、これら酵母について考える人は殆どいないでしょう。ただし、どの産地のどの人物が造っているから凄いのではなく、酵母が頑張っているおかげで美味しいワインとなっていることを忘れてはなりません。

仮に、酵母について真剣に考えていないワインメーカーがあったとしたら、恐らく美味しいワインは造れていないはずですし、自分たちも美味しいか悪いか分かっていないはずです。ぜひ、たまには酵母たちの活躍にも目を向けて、ワインを飲んでみてください。

酵母にも感謝しよう

ワインを飲む時に、これら酵母について考える人は殆どいないでしょう。ただし、どの産地のどの人物が造っているから凄いのではなく、酵母が頑張っているおかげで美味しいワインとなっていることを忘れてはなりません。

仮に、酵母について真剣に考えていないワインメーカーがあったとしたら、恐らく美味しいワインは造れていないはずですし、自分たちも美味しいか悪いか分かっていないはずです。ぜひ、たまには酵母たちの活躍にも目を向けて、ワインを飲んでみてください。