テロワールって何?

テロワールというネーミングは、ラテン語の「Terra」という文字を語源としていますが、これは「土地や大地」という意味を持つ言葉なのだそうです。

テロワールに関しては、日本語で正しいといわれている訳語がなく、人によってさまざまな捉え方をしていますが、「ブドウの栽培条件」といった感じで捉えておくと分かりやすいと思います。ワイン通がオシャレに、「テロワール」という言葉を使いますが、何を言っているのかというと、要するに「このブドウが栽培されている条件は…」と語りたいと理解しておいてください。

テロワールを細分化すると?

テロワールを語る場合、ざっくりと「暑い地域、寒い地域、乾燥地帯」といったような区分で分けられていることが多いのですが、実はもっと細分化された条件が組み合わさっており、実情は複雑です。

まず、土壌です。石灰質、粘土質、スレートなど、無数にその土壌の種類は存在します。さらに、日照量と雨量。ブドウの生育に日照量は大切ですが、あまり晴れ過ぎていてもよくありません。雨も同様、バランスが大切なのです。また、立地や土壌中の微生物、科学的な肥料の条件など、非常に複雑なファクターが絡まりあっているのが、テロワールなのです。

土壌について

テロワールについて語る時、土壌が特に注視されます。土壌で大切なのは、砂礫なのか粘土なのかという、土壌粒子の比率が大切とされています。ブドウの場合、乾燥した地域を好む果実であり、あまり湿潤な土壌だと上手に育たないといわれています。

フランスやイギリス、スペインなどのヨーロッパは非常に乾燥している地域であり、土壌もある意味では、大分痩せて貧弱な土壌です。ブドウにとっては、そういった乾燥した土地が適しており、高品質なブドウに育つわけです。そのため、「このワインに使われているブドウが育った土壌は?」などの話を良く耳にするのです。

乾燥地帯が良い理由

さて、なぜブドウは乾燥地帯で栽培すると良いのでしょうか。それには、酸素が関係しています。乾燥している土壌の場合、土壌粒子に隙間ができやすくなります。ブドウは、この隙間に含まれている酸素を利用して呼吸するので、健全に育っていきます。

降雨量が多い、湿潤地帯の場合、土壌の中に水が溜まりやすくなりますし、水はけの悪い土壌の場合は土壌粒子の間の酸素が追い出されます。ブドウの根は呼吸ができない酸欠状態になり、解糖系と呼ばれる場所で糖を分解し、ブドウの生育に悪影響を与える乳酸を溜め込んでしまうのです。これが、乾燥地帯が良いという理由です。

日照量について

次に、テロワールで大切な日照量の話にうつります。ブドウをはじめ、多くの野菜や果物などの植物にとって日照量は大変大切なポイントです。太陽光にあたることで光合成を行い、さらにはブドウに関してはフェノール類が多くなることが知られています。

光合成は、水と大気中の二酸化炭素をブドウ糖、そしてでんぷん質を作ります。このブドウ糖(グルコース)が、ワインにおける第一アロマ(ブドウ由来の香り)をつくるため、光合成が活発にできる環境のブドウは品質が高くなる、ということなのです。当然、日照量が健全に生育できず、病害などにもおかされやすくなるのです。

昼夜の寒暖差について

テロワールで大切なことのひとつに、昼夜の寒暖差というものがあります。「この地域は、昼夜の寒暖差が大きく…」などと良くワイン売り場のPOPで見かけるかもしれませんが、これはさきほどの光合成に関係しています。光合成の時、ブドウ糖、でんぷん質と数多くの香味成分をブドウは生成します。

ただし、夜は太陽光が無いので光合成は行えません。では、呼吸をしていないのか…ということですが、夜もしっかりと植物は呼吸を行っているのです。人間で例えると分かりますが、暑い夜には呼吸が激しくなるはずです。昼間せっせと蓄えた栄養分が、夜間も暑いと全て放出されてしまうのです。そのため、昼夜の寒暖差が必要であるといわれるわけです。

テロワールと品種の関係性

テロワールが良ければ、どんなブドウでも高品質なものができる…ということになりますが、ブドウ栽培というのは難しく、そういったわけでもありません。

例えば、日照量、雨量、土壌も完璧ながら、ピノノワールなどの高級品種はデリケートであるために、冷涼な地域で無いと良いものが出来ません。一方、晩熟のカベルネソーヴィニヨンなどは、冷涼過ぎると酸が強過ぎて硬く、ある程度の温暖な気候が必要です。そのため、研究者などはその土地のテロワールを調べあげ、それに適合する品種を選択して植えているのです。これが、世界中でバラバラな品種が植えられている理由です。

上級者向けはブルゴーニュ

ワインのテロワールにハマり出すと、必ず抜け出せなくなるのがブルゴーニュです。その理由は、ミクロクリマと呼ばれる、小さな区分でもテロワール条件が変化するという、世界に類を見ないブドウ産地だからです。アルプスの造山活動によって生じたといわれる、地質的断層地帯であり、古い地層と新しい地層が場所によって違います。

さらに、ブルゴーニュ地方は大陸性気候という不安定な気候区分であり、一部を除いて、赤ワインはピノノワール、白ワインはシャルドネの単一品種しか法律でつくることができません。つまり、思いっきりテロワールを反映したワインができるため、上級者は目の色を変えてブルゴーニュを追いかけるのです。

近年の傾向

テロワールについて知ると、よりワインが奥深いものだと分かっていただけると思います。例えば、近年では気温が高過ぎる地域よりも、冷涼な高所にブドウ畑を開墾する生産者が増加しています。乾燥しすぎるのも問題であり、暑過ぎると糖度が上がり過ぎて、ブドウ中の繊細な香り成分が飛んでしまうこともあります。

ブドウは、寒く、乾燥しており、風が良く吹くような、最悪な条件でストレスを受けると、より果実に栄養を残します。繊細かつ、洗練されたワインづくりには、こういったテロワールの研究が欠かせないわけです。

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