1.全房発酵とは?

古典的で近代的

昨今話題の全房発酵。ワイン醸造の技術がまだ未熟だったころ、除梗ができなかったワインにはえぐみがあったといわれています。

現代は逆に、その時代への懐古と新たな技術力、地球規模の気候の変化により再び梗(茎)ごと発酵する「全房発酵」がフランスからイタリアへ、そして世界へと広がりつつあるのです。その特徴を探ってみましょう。

全房発酵っていったい何?

「全房発酵」とはズバリ、ブドウの房のすべてを発酵してしまう方法をさします。近年の洗練されたワインとは、茎の部分を取り除く「除梗」という作業が不可欠とされてきました。

しかし、職人芸を誇るブルゴーニュやバローロのワインの作り手たちは、より複雑で力強い味わいを目指してあえて茎ごと発酵する方法を探り当てたのです。

全房発酵のメリット

ブルゴーニュのアンリ・ジャイエ、ドメーヌ・デュジャックなど、醸造技術に一家言のある専門家たちによって潮流となっている「全房発酵」。その技術には、メリット・デメリット双方が存在します。

メリットは、ワインの味わいに力強さとスパイシー感が加わり、芳香が濃縮すること。タンニンのおかげで、構造が奥深くなることが最大の長点です。とくに茎の部分まで十分に熟した房は、ワインの美味を生み出すとも。

全房発酵のデメリット

逆に、「全房発酵」にはデメリットも存在します。懐古主義に流されて、梗の部分の使用が過度になると青臭さが鼻につくようになり、ワインの香りを損ねてしまうのです。

梗の部分の使用法を一歩間違えると、ワインに苦みやえぐみが現れれてしまいます。ブドウの実の甘みや皮の高貴な渋みが、これによって台無しになってしまう危険性もはらんでいます。

2.全房発酵の魅力

フランスやイタリアにとどまらず、ニュージーランドの著名なワイナリーでも採用されつつある「全房発酵」の技術。

ワインの味を深くするか、あるいは損ねてしまうのか、まさに表裏一体の危険性を含んだこの醸造法が、世界中に広がっているのはなぜでしょうか。その魅力に迫りましょう。

ブドウの品質

リスクを冒しても使用する「梗」は、ブドウの品質が非常に良いことが第一の条件になります。梗の健康度はブドウの実に準じるため、まずは実の質がモノをいうからです。

また、全房発酵を用いるワイナリーでは、ブドウの成熟度が高い年は梗を使用する可能性が高くなるのが普通。

その年のブドウの実の出来具合によって、梗を使用するかしないか、また使用の割合が醸造家によって決定されるのです。

複雑性

全房発酵で製造されたワインの最大の特徴、それはやはり清濁併せのんだ規模の大きさに尽きるでしょう。

ひたすらフルーティな洗練を目指せば、たしかに口当たりのいいワインが出来上がります。

しかし、ワインが持つ本来の強さと自然の恩恵を、リスクを冒してでもその味に反映させた全房発酵のワインは、複雑で奥の深いワインの歴史そのものを感じさせる「器の大きさ」があるのです。

ブドウの質によっても異なる技術

全房発酵は、ブドウの質によってもその使用方法が異なるため、醸造専門家の腕の見せ所といってもよいでしょう。

たとえば、「ブルゴーニュの神」ともいわれるアンリ・ジャイエは30パーセントから40パーセントの割合でのみ梗を使用していますが、バローロのカステッロ・ディ・ヴェルドゥーノは梗を100パーセント発酵するといった具合です。

3.全房発酵のおすすめワイン

ワインボトルと薔薇

世界中で話題となっている全房発酵のワインですが、選択には頭を悩ませます。ワインの作り手たちがしのぎを削って世に送り出す全房発酵の奥行きのある味わい、ぜひ本物で味わってみたいものです。おすすめの銘柄のいくつかをご紹介いたしましょう。

ロマネコンティ

泣く子も黙るブルゴーニュの女王「ロマネコンティ」。あらゆるドメーヌの規範とも仰がれる技術のひとつに、全房発酵があげられます。

ただし、ロマネコンティの全房発酵は、その年のブドウの成熟具合を念入りに調査してから導入の有無が決まります。ヴィンテージの味わいの個々の特徴は、こうした試みからもうかがえますね。

ドメーヌ・デュジャック

全房発酵といえばブルゴーニュワインといわれるほど、その質の高さは有名。

その中でも、一代のカリスマ「ジャック・セイス」が創業したドメーヌ・デュジャックのシュヴレ・シャンベルタンは、全房発酵によるスパイシー感が特徴的な一点。

構造の深さにはメリハリがあり、まさに全房発酵の面目躍如といったところ。

ドメーヌ・ルロワ

古巣DRCと対立してまで、自らのドメーヌのワインの質にこだわり「ドメーヌ・ルロワ」に心血を注ぐ女性醸造家ラルー・ビーズ・ルロワ。

バイオダイナミック農法にこだわるルロワ女史も、全房発酵信奉者の一人。名門DRCを凌駕する勢いのワインの質も、この技術から生まれるのかも!

ドメーヌ ジャン・ルイ・ライヤール

DRCからのれん分けされたといっても過言ではないジャン・ルイ・ライヤール。DRCの生え抜きの一人として、自らのドメーヌ設立後もDRCから絶大なる信頼を寄せられているブルゴーニュきっての作り手です。

ライヤールが自身のドメーヌの創業当初からこだわっていたのが、全房発酵でした。ブルゴーニュ全土でその流行が広がる前から、全房発酵にこだわり続けたライヤールの味はやはり奥の深さで一頭地を出た存在。

アンジェロ・ガヤ

イタリアを代表するバローロやバルバレスコも、年によっては全房発酵を導入しています。イタリアの帝王と呼ばれるアンジェロ・ガヤもその一つ。

2009年に実験的に採用した全房発酵によって、味わいはよりスパイシーに、そしてバルサミコのような芳香が醸し出されることに。現在は、ピエーヴェ・サンタ・レスティトゥータが全房発酵の代表銘柄となっています。

プルノット

イタリアの名門「アンティノリ」によって運営されるバローロ「プルノット」も、クリュによっては全房発酵が用いられています。

何度かの失敗を繰り返しましたが、現在は最上のエレガンスを醸し出す全房発酵の技術を確立しています。

クラギー・レンジ

ニュージーランドを代表するワイナリー「クラギー・レンジ」は、醸造専門家マット・スタッフォードにより全房発酵が導入されています。

温暖なニュージーランドの気候を反映して、全房発酵を用いながらも柔らかな味わいを失わないのがクラギー・レンジの最大の特徴。

4.全房発酵のワインの楽しみ方

ワインと料理

より深い構造が特徴の全房発酵のワインには、どんな味わい方がふさわしいのでしょうか。心血を注いだワインの作り手たちの努力を心行くまで味わうためにも、それにふさわしい料理を選択したいもの。

ワインの銘柄やヴィンテージによってその味わいも異なりますが、参考までに。

こってり肉料理にはもってこい!

もともと、どっしりとした赤のワインは肉料理に向いているのが常識。とはいっても、鶏肉などの軽めのものは全房発酵のワインにはあまり向きません。

赤身の肉を使ったシチュー、ジビエ、とろ火で煮込んだ料理など、濃厚なソースや野性的な肉の味わいが全房発酵のワインに向いているといわれています。

肉本来のうま味を、全房発酵のワインでお楽しみください!

キノコの香りとも相性よし!

秋の味覚であるキノコも、全房発酵のワインとおいしくいただけます。その中でもおすすめは、「アンズダケ」と呼ばれる鮮やかな黄色のキノコ。

揚げ物やソテーにしてもおいしいこのキノコ、シカの肉などともよく料理される美味で欧州では有名です。澄んだ山の空気とキノコ、そして全房発酵のワインは秋の夜長のおともに最高!

まとめ

ワイン界の潮流となりつつある全房発酵のワイン。リスクを乗り越えた美味は、ワインファンならずとも実感できる力強さがあります。今後も銘柄がどんどん増えていきそうな勢い!