日本酒は一人では造れない!?

極端なことを言えば、日本酒では一人でも造ることができますが、市場に出回らせるという観点から言うと、安全で高品質な日本酒は一人で造るのはかなり無理があります。

ワインの場合、原料がブドウだけですので、亜硫酸塩など使うことはあっても極論一人でも造ることが可能です。さらに、「ドメーヌ」と呼ばれている、ひとりでブドウを造り、そのブドウからワインを醸造するという方も大勢います。

しかし、日本酒の場合は少し勝手がちがいます。米を作り、その米を精米していき、さらには麹をつけ、乳酸菌を発生させて醸造し、タンクで仕込んだり、それを瓶詰めしたりと肯定が遥かにワインに比べて多くあります。

一人でつくれ、ということが無理があるお酒なのです。

日本酒の製造工程をおさらい

では、日本酒の製造工程をおさらいしていきましょう。まず、精米からスタートし、洗米、浸漬があります。この時点ですでに一人では数人が必要かもしれません。

さらに、デンプンを分解して糖分を発生させるため、蒸米という作業があり、次に製麹、そして麹造りが行われます。

麹を造るにしても、その専門の方がいるので作業的には別になるでしょう。そして、酛と呼ばれる種簿造りがあります。

酒母を造ることができたら、次はもろみ造りの工程がまっています。そして、上槽から搾り、濾過、火入れをして貯蔵と加水を経てから、ラベル貼り、出荷です。

日本酒は、実は大変工程の多いお酒のひとつなのです。

大まかなシステム

日本酒造りの流れがわかったところで、ここで杜氏の存在について考えてみましょう。

日本酒のイベントなどでは、よく杜氏が登場したり、話題に上ったりしていますが、あの杜氏は酒造りをする人と思われがちですが少し意味合いが違います。

杜氏は、酒造りの最高責任者という認識であり、ボスです。さらに、蔵元と呼ばれている人もいるのですが、これはオーナーです。

杜氏は、自ら動かれる人もいるのは当然ですが、指示をしているだけ、ということもあり得ますし何ら問題はありません。

そして、杜氏の下にはそれぞれを担当する人間がおり、その人たちのチームワークによって美味しい日本酒ができるのです。

杜氏の仕事を知ろう

では、まず杜氏の仕事とは何かを考えていきましょう。

杜氏は、その酒蔵の酒造りの最高責任者として働いています。前述したような、細かく別れている作業工程を仕切るのが仕事です。

工程の管理はもちろん、大切なのはどのような酒質に仕上げるかをぶれずに造り手たちに伝えなければならず、杜氏の意思や思いがぶれてしまうと、結果的に造り手たちが混乱してしまいます。

そのため、レベルの高い酒造りが一人ではできていたとしても、人をまとめる力が無い杜氏の場合、その酒蔵のお酒は美味しくなることはないと、言い切ることすらできるわけです。

いろいろな杜氏がいる

しかし、近頃では一般的に言われている杜氏とは別の仕事の仕方をしている、そんな杜氏も多くなっていると言われています。例えば、蔵元杜氏と呼ばれているものです。

冒頭、ワインにおけるドメーヌに近しい部分がありますが、オーナー兼杜氏、というやり方で酒造りをする人たちがいます。

さらには、杜氏自体を雇っておらず、データを収集した酒造りを行っている、そういったところもあるのでユニークです。

蔵元自体が酒造りをしたことがなくとも、腕利きの杜氏を迎え入れることでその蔵元の酒の善し悪しが左右されますが、近頃では自由な発想の酒蔵が増加していると考えてよいでしょう。

三役とはどんな人!?

さて、杜氏のイメージが大きく変わってきたかと思われますが、次に杜氏の右腕として働いている人を紹介します。それが、「三役」と呼ばれる担当です。

杜氏は最高責任者的存在ではありますが、蔵元が大きい場合は全ての工程を指示していくのは無理があります。

そのため、その思想を伝えて、それを上手に理解して実際に現場へ落としこむ作業をしているのが、「三役」と呼ばれている人物なのです。

とはいえ、三役というのは一人の人間が担当しているわけではなく、三役の文字通りそれぞれに担当が決まっているので、細かく紹介してまいりましょう。

頭(かしら)

頭は、名前の通り三役のトップ的存在です。ある意味では、杜氏の完全なる右腕であり、副社長的な立ち位置と考えてよいでしょう。

前述した通り、杜氏の指示するさまざまなことをしっかりと受け止め、それを蔵人に命令していくような仕事をしています。

醪などの仕込みであったり、管理を行うこともありますが、杜氏のスタイルによっても仕事内容は変わってきます。

さらに、小規模な生産者であった場合は杜氏が頭の仕事を兼務している場合もあります。

頭は、基本的に全体のまとめ役、と理解しておくと良いのではないでしょうか。

麹屋

麹屋は、その名の通り麹を扱っている担当の責任者的役割の担当です。麹は、あまり目立たない存在ではあるものの、酒の味わいを大きく左右する大きな存在であり、今また広く業界で見直されています。

麹屋は、蒸米に麹菌を振りかけることで、デンプン質が分解されて糖質、つまりブドウ糖を発生させます。

すると、徐々に米が溶けていってしまいますが、ここで大きく日本酒の味わいが変化するので、とても大切な作業として注目されているわけです。

麹屋の仕事は大変繊細であり、「麹室(こうじむろ)」と呼ばれる専用の部屋で作業を行わなければならない、大変繊細なものです。

酛屋

生酛など、酛という言葉を日本酒好きな方であればよく耳にしますが、酒母である酛を担当しているのが、酛屋という存在です。さきほど、麹菌によって発生したブドウ糖を次にアルコール発酵させていきますが、その酵母を管理しているのが酛屋です。

ただ、単純にアルコール発酵をさせれば良い、というものではなく、選ぶ酵母の種類によって大きく日本酒の味わいは変わります。

こちらも、麹屋同様に「酒母室」などと呼ばれいてる専用の部屋が用意されており、徹底して酵母の管理が任されています。仕込みなど、頭と一緒に行うこともあるので、重要な担当部署と呼んでよいでしょう。

釜屋や炭屋

日本酒造りの主な担当者を紹介していきましたが、日本酒造りにはほかには、釜屋であったり炭屋といった担当も存在しています。

麹菌を振りかける前に造られる蒸米を担当しているのが釜屋で、濾過する工程を担っているのが釜屋です。

米を蒸すというとあまり必要度が低い工程だと思われがちですが、蒸し方にムラがあったりキレイに蒸されていないと結果的に低質な酒ができてしまいます。

また、生酒の中で生きている滓などをしっかりと取り除き、美しく美味しい日本酒に仕上げるための炭屋の働きも見逃すことは、できません。

簡単にできると思われがちな日本酒ですが、実はさまざまな人たちの力によって、生まれていたのです。

お店の人たちだって重要!?

最後、当たり前過ぎて忘れられがちですが、日本酒を販売するお店のスタッフ、さらに扱っている全ての人たちも日本酒造りには欠かせない存在です。

どんなに命をかけて美味しい日本酒を造っても、売る場所がなければただの酒です。さらに、酒質を守って流通させるために運送の人たちも重要ですし、冷蔵庫を造られている方、販売員はもちろん、飲み手も自分たちが飲まなければ日本酒の存在意義は無意味ですので、末端の末端まで日本酒造りというのは多くの人たちが関わります。

ぜひ、日本酒には多く人が関わっており、全ての人たちの魂が入り込んでいる、と思ってありがたくいただきましょう。